小説に満たない駄文

キミニトドケ

懐かしい人に突然出逢うのは、びっくり箱を開けるのに似ている。
不意をつかれてドキドキして、ちょっと楽しい。
会わない間に変わった所を見つけて、驚いたり嬉しかったり切なくなったりするんだ。
楽しいだけの感覚じゃないけど、僕は結構そういうのは嫌いじゃない。

とある休日。街を歩く僕の目の端に懐かしい感覚が掠めた。
振り返って『アイツに似てるな』と思った次の瞬間、もう声をかけていた。
人違いだったらどうすんだ、と一瞬後悔したけど杞憂だったみたいでホッとする。
しばらくお互いの近況を喋って、久しぶりだから遊ばないかと誘ってみた。
あいにく仕事中とのことで、それは叶わなかったけど、後日必ずと約束してアイツに手を振った。
『頑張ってるな』と言った時の照れくさそうな笑い方が、記憶にあるより大人びてて時の流れを実感する。

「僕は、頑張れてるかな…?」

アイツを見送った雑踏の中でポツリとこぼれた言葉は、僕以外に届く事なくざわめきの中に溶けて消えた。

 
どうやらこういう事は続くものらしい。
僕はいつも通り、休日の締めくくりとして命の糧(本と音楽!)を物色していた。
さんざん頭を楽しく悩ませて選びぬいた物を手にレジへ向かう。何気なく並んだ列の先に。

彼女が、いた。

昔のバイト先の常連さん。ミステリーと歴史が好きな、かつての想い人。レジに彼女が来る度に交わす挨拶と、二言三言の雑談。これが僕の精一杯だった。
その先に繋がる何かを見いだせないまま、大学生だった彼女は卒業して街を去り、想いを告げ損なった僕は、それをあきらめで包み胸の奥へ押し込んだ。

あれから何年たったっけ。髪、伸びたな。化粧も上手くなった?あの頃が下手だった訳じゃないけど、なんて言うか…雰囲気が違う。綺麗になった。社会人になったから?それとも…
僕が知らない所で彼女を通り過ぎた時間が、彼女に記していった跡を見つける度に、しまい込んでいたはずの心がカタカタと音をたてて主張する。

 
『もう一度、話したい』


声をかけてどうなる?
どうもならない。わかってる。
あの時言えなかった言葉を伝えるのか?
そうじゃない。ただ、話をして思い出してくれたら…

自問自答を繰り返しながら決心を固め、呼びかけようと口を開きかけた時、順番が来た彼女は列を離れていった。なんとも間が悪い。列を離れて話しかけようかと思ったら、今度は僕の番が来た。まだレジのそばにいる彼女を横目で見つつ、手早く済まそうと財布を用意する。いつもは気にならない処理スピードが遅く感じられて仕方がない。

カバーなんてどうでも良いから早くしてくれ!

喉元まで出掛かった言葉を抑えつつ、やっと会計を済ませて振り返る。

「……いない」

一瞬、目の前が暗くなって、想像以上に落ち込んでる自分に驚いた。でも、諦めるのはまだ早い。
この店の出口は一カ所しかない。エレベーターも1基しかないし、スピードも遅いから今ならまだ間に合うかも!
ここ数年なかったペースで走ったと思う。一縷の望みを繋ごうとした自分の頑張りを誉めてやりたい。それが報われる事は、残念ながらなかったけど。

 
 
もし、言葉を交わす事ができたなら、どんなふうに僕は君の瞳に映ったんだろう。

『頑張ってるね』

そう言って微笑って(わらって)くれただろうか。
二度ある事は三度あるって言うから、いつかきっとその時が来ると思う。その時、僕はどうするんだろう。
できればもっとカッコ良く話しかけられたら良い。その後の事は、わからないけど。

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